ラーメンズ『home』より「ファン」

~この台本を使用する際のルール~

・これは、コントグループ”ラーメンズ”の作品です。

・上演の前後や熱量の度合いについては問いませんが、下記配役表に記載されているリンク先の動画並びにYouTubeの公式アカウントのプッシュをお願いします。動画で得られる広告収入は日本赤十字社を通じ寄付されます。

以上



声劇”ラーメンズ『home』より「ファン」”

作者:ラーメンズ / 青木 ××


小林:

片桐:


URL(YouTube): https://www.youtube.com/watch?v=fWubIFt9ZF0




小林「……いつも悪いことをしてる人が、ちょっといいことをすると、あれ、実はいい人なんだな、なんて思えるけど、いつもいいことをしてる人が、ちょっと悪いことをすると、あれっこの人、本当はものすごく悪い人なんじゃないかって思えるんだよ。ってことは、いつも悪いことをしてた方が……得だよな」

片桐「ああ、なるほどね。まあそんなもんかな。あの回転寿司でたまに回ってくるプリンみたいなもんだよ」

小林「うん。……ん?」

片桐「まあ、聞き流せよ」

小林「うん」

片桐「……来ないねえ」

小林「そうだねえ」

片桐「昨日は必ず時間どおりに行くって、言ってたのになあ」

小林「……待ち合わせに十分遅れそうなとき”二十分遅れます”って電話で言っておいて、実際十分遅れで到着したら”意外と早かったね”なんて言ってもらえちゃうのって、言葉のマジックだよね」

片桐「ああ、なるほどね。まあそんなもんかもな。五分計れる砂時計をひっくり返して、砂の量で三分を見抜くようなもんだよね」

小林「うん。……ん?」

片桐「まあ、聞き流せよ」

小林「……お、おうそうだな」

片桐「……それにしても遅いなあ」

小林「そうだよねえ」

片桐「JRで事故でもあったかなあ」

小林「……リニアモーターカーってさ、磁石の力で動くって聞いたとき、出発地点に強力なS極があって、目的地に強力なN極があって、そんでリニアモーターカー自体は強力なS極で、出発地点でS極同士が反発しあって、目的地のN極にガチーンとくっつくから、すんげえ早いんだと思ってた」

片桐「はっはっはっ、そんなわけないだろ、リニアモーターカーじゃねえんだから」

小林「なあ。……え?」

片桐「まあ、聞き流せよ」

小林「いや、でも今のは、おかしくねえか?」

片桐「それにしても、ちょっといいかげん遅すぎるよな」

小林「ああ、うん、そうね」

片桐「あいつの番号教えて」

小林「持ってないよ、あいつ」

片桐「……家にかけたら居たりして」

小林「いや、さすがにそれはないでしょう」

片桐「……あったよ。おーい、なんでまだ家なんだよ! ……しかもお前、その声は寝起きだろ! ……だめだ」

小林「もしもし、かわったよ。どうしたの? ……えっ⁉ おめえ、何言ってんだよ。……え⁉ 来週じゃないよ、今日だよ!」

片桐「最悪だ」

小林「最悪だ。……うん、しょうがないよ、待ってるよ。……え? 来方? ……うん……そうそう……そう…………は⁉ 電車に強いも弱いもねえだろ。おめえ何言ってんの? 埼玉の埼に東京の京だよ。うん、そう、そこで俺たちと合流して、そっから車だよ……おめえ何言ってんの? 何で高速道路透きとおってるんだよ! ……そう、そっちだよ。東京の東に名古屋の名だよ」

片桐「出た、バカ柳」

小林「うん、じゃあ待ってるからな。正確に着ける時間がわかったら、俺の方の携帯に連絡ちょーだい。じゃあな」

片桐「……三十分はかかるよな」

小林「うん、どっか入ってようよ」

片桐「いや、向こうに着いてからのために無駄使いはやめよう」

小林「おっ! 気合入ってるねえ」

片桐「あたりめえだろ。年に一度の野外だぜ」

小林「Tシャツ買う?」

片桐「全色!」

小林「おー! あとウチワも」

片桐「お! ぬかりないねえ……しかしさ、お前もこの一年でずいぶんとはまったクチだよな」

小林「うーん、キクちゃんの影響だよ」

片桐「え、じゃあもう、メンバーの名前全部言える?」

小林「おい、バカにしないでくれよ。ボーカルのクリープ平岡だろ、トライアングルのキャロット馬場だろ、そんでギロの、ビーム阿部と、ギロの窪乃内バイシクル」

片桐「おー」

小林「しかし、他に類を見ないバンド編成だよね」

片桐「でもまあ、そこがカッコイイんだけどな」

小林「最高」

片桐「カリフォルニアひやしんすバンド、カルトクイーズ!」

小林「よっしゃ!」

片桐「問題」

小林「来い」

片桐「カリひやのデビューシングル『激辛コバンザメ』のカップリング『掛け布団ドリーム』」

小林「おお、名曲だあ」

片桐「この曲の途中に幽霊の声が入っていました。何と言っていたでしょうか!」

小林「ピンポーン! (ささやくように)日東駒専」

片桐「正解! 次の問題。カリひやの最新アルバム『ご飯寿司』」

小林「おお『ご飯寿司』二枚買った」

片桐「この中の四曲目『お風呂で茶わん蒸し アフリカ篇』には、歌詞カードに××××としか書かれていない歌詞が歌われています。さて、何と言っているのでしょうか」

小林「ピンポーン! 『いたくもかゆい』」

片桐「正解!」

小林「よっしゃ!」

片桐「次の問題。ボーカルのクリ……」

小林「うわあ‼ ちょっと待った。……はい、もしもし。おお、ツモッチャン、どうしたの。へー、今日コンサート行くんだ。へー誰の? ……おーおー、ノートルダムテナガエビオーケストラ。東京ドームだろ? へー……え! チケットあまってんの⁉ ……あーごめん今日、実は俺、別のライブに行くんだ。……うん、カリフォルニアひやしんすバンド樹海コンサート……うん、そっかごめんね、タイミング悪いよ。うん、あ、そうだ! ノートルのさ、ジャンパー買ってきてくんないかな? 会場で売ってるやつ……そう、あの肌色の七分袖の。前武道館行ったとき売り切れちゃってだめだったんだよー……うん、じゃあそうだな、楽しんでこいよ。……うん、こっちはこっちで行ってきます。じゃあな、ありがとう」

片桐「……」

小林「……」

片桐「…………」

小林「なんなんだよ」

片桐「帰ってくれないか」

小林「……は?」

片桐「あんな邪道バンドのファンは……カリひやファンの敵だ!」

小林「ちょっと待ってよ、何言ってんだよ。俺は両方好きなんだぜ」

片桐「あーあーもう最悪だ。真逆の二組じゃないか!」

小林「そうかなあ」

片桐「そうだよ、全然違うよ。何だ、やつらの今度のシングル」

小林「ああ、えーと『あんかけプロボーラー』」

片桐「おええええええ!」

小林「ひどいなあ」

片桐「おええ……ああ……ああー回虫が……おええ……体中を回り続ける……おえーエンドレス回虫……おえええ……お腹がすき続ける……」

小林「そんなに変わんねえじゃん、そっちだってさ」

片桐「全然違うよ。今度のツアータイトル何だっけ?」

小林「『びしょびしょカブトムシ食い倒れツアー』」

片桐「ぶわあああああああああ……逆流逆流……口へ……おええ……まずいよーおええ……何だ今度は……耳から耳へこう……横長の回虫……あああ……耳から耳へ……こう……あああ……タテからヨコへの……こう……タテ軸とヨコ軸……」

小林「そんなこと言うんなら、そっちのツアータイトルだってたいして変わんないじゃないか」

片桐「全然違うよ『ばさばさウミガメぎっしりエロ本ツアー』。……ハー! 真逆だ! 真逆!」

小林「同じだよ」

片桐「全然違うよ」

小林「いいよ……別に良いんだぜ俺、カリひやファンやめても」

片桐「ああ、やめろやめろ! あんなカスバンドのファンなら、こっちから願い下げだ!」

小林「じゃあいいよ。……もしもしツモッチャン? 俺俺。さっきありがとね。あのさあ、まだチケットある? ……本当⁉ 二枚も! 俺とバカ柳、行っていい? ……やったー、ありがとう。うん、わかった、じゃあバカ柳と合流できたら連絡するわ。はーい、じゃあまたあとでね」

片桐「おい、バカ柳がどっちに行きたいかは、まだわからないじゃないか」

小林「もうすぐ俺の携帯に連絡があるから、聞いてみるよ」

片桐「……だめだね!」

小林「なんで?」

片桐「だってそんなのおかしいじゃん、そんなチケットがあるからってそんな途中でさあ」

小林「あ、自信ないんだろ。バカ柳がカリひやとノートルだったらノートルを取ると思ってんだろ」

片桐「何言ってんの? そんなわけないじゃん」

小林「あ、そういえば。バカ柳、さっき電話で話したとき、あいつの部屋で『あんかけプロボーラー』かかってた気がするなあ」

片桐「……っへー! っていうか! いいわ。俺別にバカ柳最初っからいいわ。うん、富士山一人で行きますわ」

小林「行けば」

片桐「行くよ」

小林「行けよ」

片桐「行くよ」

小林「そうしろよ」

片桐「そうするよ」

小林「そうすれば」

片桐「そうするよ」

小林「何でまだ、ここに居んの」

片桐「いいじゃん別に」

小林「行けよ」

片桐「行くよ」

小林「何でまだ、ここに居んの」

片桐「いいじゃん別に」

小林「一人で行くんだろ」

片桐「行くんだよ」

小林「何でまだ、ここに居るんだよ」

片桐「いいじゃん別に」

小林「よくねえよ。早く行けよ」

片桐「行くよ」

小林「誰待ってんの」

片桐「待ってねえよ」

小林「早く行けよ」

片桐「行くよ」

小林「お前なに泣いてんの?」

片桐「泣いてねえよ」

小林「泣いてんじゃん」

片桐「泣いて、ねえよ」

小林「泣いてんじゃん」

片桐「泣いて、ねえ……」

小林「うわああああ! バカ柳からだ。……もしもし。おおバカ柳、え? あと二十分はかかる? ……いや、それがちょうどよさそうなんだ。実はさ……行き先変えない? ノートルダムテナガエビオーケストラのチケット入っちゃった。え? そうそうドーム。何で知ってるの? え? 前から行きたかったの? あ、そお! うん、じゃあ駅に着いたら電話ちょうだい、迎えに行くから。……え? 出がけに天気予報見たら? 静岡県どしゃぶり⁉ あそお! じゃあもう、あっちは今日中止かもねえ。うん、はーい、待ってまーす」

片桐「……どしゃぶりなんて、そんなのウソだね。だって東京はこんなに晴れてるじゃないか」

小林「……二十分か……時間あるな。CD屋にでも行ってノートルのニューアルバムでも視聴してこよーっと。あんなパクリバンドとはおさらばだ」

  小林、立ち去る

片桐「くそう……俺はなあ、ラジオを持っているんだよ。こいつで聞けばそんなウソ、一発でな……」


小林「(ラジオの音声で)つい先日入ったニュースです。今日午前八時四十分、若者に人気のロックグループ、カリフォルニアひやしんすバンドのボーカル、クリープ平岡、本名平岡正次三十九歳が、覚せい剤所持の容疑で逮捕されました。平岡容疑者が所属しているバンドは、今夜青木ヶ原樹海でコンサートを予定していましたが、中止となりました。所属プロダクションは、全く気づかなかった、ファンの皆様には、大変申し訳ないことをした、とコメントを残しています。次のニュースです……」

片桐「くそう……!」



〈FIN〉





この台本は、小林賢太郎・著「小林賢太郎戯曲集 home FLAT news」に掲載されている”home”の”ファン”を書き写し、声劇に用いる際に違和感のないように付け足し・差し引きをしたものです。YouTubeの公式アカウントにより投稿されている”ラーメンズ『home』より「ファン」”を書き起こしたものではありません。ご了承下さい。

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作成日時:2019/06/06/00:00

青木 ××の言葉

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