ラーメンズ『home』より「読書対決」

~この台本を使用する際のルール~

・これは、コントグループ”ラーメンズ”の作品です。

・上演の前後や熱量の度合いについては問いませんが、下記配役表に記載されているリンク先の動画並びにYouTubeの公式アカウントのプッシュをお願いします。動画で得られる広告収入は日本赤十字社を通じ寄付されます。

以上



声劇”ラーメンズ『home』より「読書対決」”

作者:ラーメンズ / 青木 ××

小林:

片桐:

URL(YouTube): https://www.youtube.com/watch?v=qDIllK4BTNA




小林M「この世界では朗読のしあいがゲームとして成立している。お互い、自分の本の面白さを競うのだ。勝者はカッコよく本を閉じることができる」


小林「シェイクスピア」

片桐「芥川龍之介」

小林「ロミオとジュリエット」

片桐「鼻」

小林「花の都、ヴェローナという所の物語」

片桐「鼻の長いゼンチナイグという男の話」

小林「名門キャプレット家とモンターギュ家が争っていることは有名だった」

片桐「その辺りで知らないものはいないほど、ナイグのだらりと長い鼻は有名だった」

小林「そんな家同士の対立というへだたりを乗り越え、ロミオとジュリエットは引かれあってしまう」

片桐「ナイグの鼻はナイグの耳と引かれあってしまう」

小林「ロミオは窓辺に立つ彼女への思いをつぶやいた。”向こうの窓から差して来る光は? あっちが東、だとすればジュリエットは太陽だ!”」

片桐「鼻は顔の横についている耳への思いをつぶやいた。”向こうに空いている穴は? こっちが口、だとすれば耳はブラックホールだ!”」

小林「ジュリエットもつぶやく”ああロミオ、どうしてあなたはロミオなの?”」

片桐「耳もつぶやく”ああ鼻、どうして前についているの? 俺なんか横だぜ”」

小林「しかし二人の思いとは裏腹に、ジュリエットの親は別の相手との縁談を進めてしまう」

片桐「しかし二人の思いとは裏腹に、耳は目との縁談を進められてしまう」

小林「ジュリエットはこんな作戦にでた、結婚前夜に薬を飲んで仮死状態となり、墓場でよみがえってロミオと結ばれようという、まあ、医学的には可能かどうかわからないけど、原文でもこうなっているし……」

片桐「耳はこんな作戦にでた、結婚前夜に薬を飲んで仮死状態となり、墓場でよみがえって鼻と結ばれよう」

小林「しかし、ロミオは本当にジュリエットが死んでしまったと思い、本当は生きているジュリエットに接吻し、薬を飲んで自殺してしまう」

片桐「しかし、鼻は耳が本当に死んでしまったと思い、本当は生きている耳の匂いを嗅ぎ、毒を飲んで自殺してしまう」

小林「のちに、仮死状態から目覚めたジュリエットはロミオが死んでいるのをみつける。ジュリエットはロミオの腰から短剣をとり、自分の胸に突き刺した」

片桐「のちに、仮死状態から目覚めた耳は、鼻が死んでいるのをみつける。目は、おでこの口から顎をとり、眉間の喉に眉毛した」

小林「こうして悲劇は終わった。このロミオとジュリエットの物語ほど不幸な話は、またとないだろう」

片桐「こうして戦争は終わった。この鼻と耳の物語ほど、顔中のパーツがでてくる話は、またとないだろう」

小林「シェイクスピア原作”ロミオとジュリエット”」

片桐「芥川龍之介原作”ミミオとハナエット”、邦題”耳鼻科の由来”」

  片桐、勝ち誇ったように本を閉じる

小林「……今の勝ったか?」

片桐「勝ったよ!」

小林「もう一回、もう一回だ」

片桐「よし」


小林「井伏鱒二”山椒魚”」

片桐「川端康成”伊豆の踊り子”」

小林「山椒魚は悲しんだ。成長しすぎて、自分のすみかである岩穴から、出られなくなってしまったのだ」

片桐「伊豆の踊り子は悲しんだ。踊りすぎて、自分のすみかであるアパートから追い出されてしまったのだ」

小林「コケで汚れていくその穴は、とても狭かった」

片桐「代わりに住みついた洞穴は、とても狭かった」

小林「山椒魚はせまい出入口から、メダカが泳いでいるのを眺めていた」

片桐「伊豆の踊り子は、メダカを食って生きていた」

小林「やがて山椒魚はどうしても外に出たくなった」

片桐「やがて伊豆の踊り子はどうしても踊りたくなった」

小林「出口に突進したが、頭がつかえてしまった」

片桐「来ていた着物は燃料に使ってしまった」

小林「山椒魚は泣いた”ああ、寒いほど独りぼっちだ!”」

片桐「伊豆の踊り子は泣いた”ああ、寒い!”」

小林「ある日、一匹のカエルが穴に迷い込んできた」

片桐「ある日、一本の変なキノコを食べたら、全然寒くなくなった」

小林「山椒魚は閉じ込めてやろうと思い、自分のおしりで穴をふさいだ」

片桐「このキノコの効果を持続させようと思い、自分のおしりの穴をふさいだ」

小林「山椒魚とカエルは、その日から一年間、互いの悪口をしゃべり続けた」

片桐「伊豆の踊り子は、その日から一年間、壁に向かってしゃべり続けた」

小林「次の一年間は一切しゃべることをしなかった」

片桐「次の一年間は一切呼吸をしなかった」

小林「ある日、カエルは遠慮がちに言った”実は俺、もうお前のことは怒ってないんだ”」

片桐「今、俺は遠慮がちに言う”実は俺、この話知らないんだ”」

小林「っ!」

  小林、怒り気味に本を閉じる

  「知らねえならやるなよ!」

片桐「もう一回、もう一回だ」


小林「ヴィクトル・ユゴー”レ・ミゼラブル”」

片桐「ドストエフスキー”罪と罰”」

小林「お前知ってんのかよ」

片桐「知ってるよ! お前こそ知ってんのかよ!」

小林「二冊持ってるよ! 保存用と……」

片桐「…………」

小林「…………」

片桐「保存用と何だよ!」


小林「ヴィクトル・ユゴー”レ・ミゼラブル”」

片桐「ドストエフスキー”罪と罰”」

小林「ジャンバルジャンは、貧乏だったためパンをひとつ盗んでしまいました」

片桐「ラスコーリニコフは、ナポレオンのような支配者になるべく、その資金作りに金貸家の老婆をぶっ殺した!」

小林「っ! ジャンバルジャンだって、もっと悪いことはしている。新宿思い出横丁の火事はジャンバルジャンが犯人だし、巨人が優勝できないのも、間違いなくジャンバルジャンのせいだ。最近なんか、八王子の暴走族の中で一番偉くて、眉毛だってない」

片桐「っ! ラスコーリニコフなんか、そりゃあもうそれどころじゃなく悪くって、iMacそっくりなパソコンを売ったり、怒られて銀に塗ったり。中央線で人身事故が多いのも間違いなくラスコーリニコフのせいだし、最近なんかコンサートに行って、ノリノリの曲でじっとして、バラードでヘッドバンキングをして、周りの客を盛り下げたりした」

小林「……しかし! ジャンバルジャンは改心した。今ではある小都市で、市長を立派に勤め上げている。ジャンバルジャン、頑張るじゃん」

片桐「っ! ラスコーリニコフだって改心した。今では店長から”社員にならないか”と言われているほど頑張っている。ラスコーリニコフ、ラスコーリニコフじゃん」

小林「っ! ジャンバルジャンなんかもっと頑張っていて、海にものすごい量のうんこをして、島を作り、沖縄の領海を広げたりした。ジャンバルジャン、頑張るじゃん、ふんばるじゃん、やんばるじゃ」

片桐「……やるじゃん」

小林「ところがある日、自分の過去の罪を着せられた全くの別人が、死刑にされようとしていることをジャンバルジャンは知った。”自分のために他人が殺されていいのだろうか”彼は自首すべきかどうか、悩んだ」

片桐「悩んだと言えば、殺人の罪の意識にさいなまれたラスコーリニコフも悩んだ。高熱をだして寝込んだり、意識を失ったり、奇怪な夢にうなされたりするほど、自首すべきかどうか、悩んだ」

小林「っ! ジャンバルジャンだって、変な夢くらい見た。例えば、細ーい虫ピンをでっかい木づちで打つ夢とか、ものすごい勢いで針金がぶわっと増える夢とか、自分の家が海の近くにある夢とかを見た」

片桐「っ! ラスコーリニコフの夢なんかもっとわけわかんなくって百メートル走で自分だけものすごい遅くて、他の人を見たらみんな親戚だったり。何かを一生懸命探していて、自分の机の抽出しをあけると、ものすごい怖いモノが出てきそうであけられなくて、でも抽出しは勝手にあいて、中から昔飼ってた犬が出てきて、目が覚めると泣いていたりした」

小林「……ジャンバルジャンには、コゼットという娘同然にかわいがっている少女がいた。ジャンバルジャンは、コゼットを眺めているだけで幸せで、晴れやかな気分になり、コゼットに幸せを与えることで、自分も幸せになれた」

片桐「っ! ラスコーリニコフにだって、物語には出てこないけど娘がいた。名前は……ヤヨイ。ヤヨイはものすごくかわいくって、目に入れて耳から出したらちょっと痛かった。でも、そんなことはどうでもよくなっちゃうほど、可愛かった」

小林「っ! コゼットだってめちゃくちゃ美少女で、ちょっと微笑めばクジャクが集まってくるし、足跡からみるみるチューリップがはえてくるし、さしみをつまんだら生き返った」

片桐「っ! ヤヨイにだって超能力はあって、首を百八十度回したり、テレビから這い出てきてすごい覚悟でにらんだり、本当にやばくなって撮影を途中でやめたりした」

小林「……いろいろあったが、最後は全ての誤解も解け、コゼットとその夫に手を取られて彼は死んだ、天使を失ったときに」

片桐「スタッフが不慮の事故で死んだり、照明が落ちてきて女優が死んだり、脚本家が自殺したり。いろいろあったが、今となってはいい思い出。最後までなんとか撮影は終了。ヤヨイは死んだ。たくさんの恨みを……」

小林「っ! ……後ろ」

片桐「……後ろ?」

  片桐、後ろを振り向く

  小林、勢いよく本を閉じる

  「わっ!」

小林「わっはっはっはっはっは!」



〈FIN〉





この台本は、小林賢太郎・著「小林賢太郎戯曲集 home FLAT news」に掲載されている”home”の”読書対決”を書き写し、声劇に用いる際に違和感のないように付け足し・差し引きをしたものです。YouTubeの公式アカウントにより投稿されている”ラーメンズ『home』より「読書対決」”を書き起こしたものではありません。ご了承下さい。

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作成日時:2019/06/03/00:00


青木 ××の言葉

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